前回までで、BLOF理論の「ミネラル」「アミノ酸肥料」「堆肥」について学びました。今回は、実際にどのように土壌分析や施肥設計をするのかについて学んでいきます。土壌分析や施肥設計は、実習もしながら身につけていきます!
前回までの復習
- ミネラル=光合成を活発にするのに大切(センイづくり)
- アミノ酸(チッソ)= 細胞をつくるもと
- 堆肥=センイ作り、土の物理性、生物性
土壌分析や施肥設計では、土の化学性を整えます。
土の物理性・・土壌団粒化(溶けやすい堆肥)
土の生物性・・有効菌(酵母菌、バチルス菌、放線菌)を働かせる
土の化学性・・土壌分析・施肥設計
土壌分析は体積法で調べる
土壌分析では、Dr.ソイルという検定器を使って分析します。
画層引用:富士平工業農産機器部
物質を調べる方法は「重量法」と「体積法」がありますが、ドクターソイルでは体積法を使います。普通の土が100gで100ccだったとしても、堆肥で空気が入っていると100gで200ccになりえます。「重量法」でやる場合、しっかり乾燥させたものを溶かして調べるため、農業的ではありません。
土壌分析のポイント
- 体積で調べる(重さではない)
- 生土で調べる(すぐに調べられる)
- pH=4.2の酢酸でとかして、溶け出たものを調べる
pH=4.2は根酸と同じです。根酸で溶かしたものしか植物は吸えないため、pH4.2で溶かしたものを調べます。
肥料の溶けやすさ
肥料は「溶けやすさ」がそれぞれ異なります。
< 肥料の溶けやすさ>
水溶性・・溶けやすいが、持続性がない
ク溶性・・クエン酸で溶けるか。溶けにくいため、持続性がない。
可溶性・・水には溶けないが、ある規定の溶液に溶ける。(肥料として売られているが溶けないので、基本的には使わない)
テキスト「有機栽培の野菜つくり」105ページの「施肥一覧」をみると、ミネラルの水溶性やク溶性の記載があります。さらに、肥料では、液体または固体を選択することで溶けやすさを調整しています。
ミネラルは先行させ、チッソ(アミノ酸)は後追い
植物の生長は、まず最初は根っこが増えるため最初は少しずつ生長します。後に葉ができてきて、葉の面積がどんどん増えます。
- アミノ酸:細胞をつくる元。最初が肝心。
- 堆肥:長期的に生育を支える
- ミネラル:光合成を活性化。減った分だけ追肥する。
施肥するタイミングは、ミネラルもアミノ酸肥料も堆肥も一緒ですが、植え付けをするタイミングは『ミネラルは先行、チッソは後追い』の法則を守ります。
それぞれの溶けやすさを考えてみると、最も溶けやすいのはアミノ酸(もともと液体なので)です。また、堆肥も溶けすいように作るので溶けます。一方、ミネラルは元々石の塊なので、ほかに比べると溶けにくいです。そのため、ミネラルが溶けた時点で土の準備が整い、植え付けができることになります。なので、『ミネラルは先行、チッソは後追い』というわけです。
もしも、ミネラルが溶けていない状態で植え付けをしてしまうと、ミネラルが後追いになってしまいます。ミネラルが充分でないと、光合成も活発でないので植物はセンイがうまくつくれず細胞の壁もうまくできません。そのため、虫にやられたり棚持ちが悪い野菜になってしまいます。
ミネラルが溶けていない→ 光合成が不活性 → センイができない → 虫食い
ミネラルがしっかり溶けてたか分かるには?
ミネラルがしっかり溶けたかを知る明確な方法はないそうです。しっかり溶かすためにも、夏(7月・8月)に農業をはじめるのが理想です。太陽熱養生処理をしたら、微生物も元気になって酸を出すので、その酸によってミネラルもさらに溶けます。はじめての作付の場合、施肥したあと1週間〜10日ほど時間を掛けたほうがいいです。
施肥設計ソフトの使い方
施肥設計ソフトを使って「CEC」の値を調べます。
CEC:土にどれだけ養分を吸着できるかを調べる
- 施肥設計ソフトに測定値をいれます。
- 上限を目指して施肥量をいれます。
チッソ定数
堆肥には、チッソの多いものと、炭素が高いものがあります。これを示したのがC/N比。堆肥を土に撒いても、堆肥の場合はチッソが全部植物に行くわけではありません。一方アミノ酸肥料は、液体で溶けやすいこともあり、すぐに微生物が分解し植物に取り込まれます。
※ チッソは微生物によって分解されて植物にいきます。炭素が多いと微生物は食べきれなくなります。
微生物は、炭素11/チッソ1の割合で土を分解していきます。そのため、C/N比が10/1以下の肥料は、すべて微生物が分解できるので、植物にもすべてのチッソが運ばれます。(そのため、C/N比が10以下の肥料は"アミノ酸堆肥"と区分しています。しかし、C/N比が11/1以上の堆肥は、微生物がすべて分解できないため、チッソがすべて植物には届きません。
C/N値 = 10/1以下
微生物が分解できるためチッソが全て植物に行く。アミノ酸肥料と分類する。
C/N値 = 11/1以上
微生物が全てを分解しきれず、チッソは全て植物にいかない。堆肥と分類する。
チッソ定数は、堆肥のC/N値からどのくらい植物にチッソが供給されるかを示した値です。テキスト『有機栽培の野菜つくり』70ページに、肥料のC/N値とそれぞれの「チッソ定数」が記載されています。
チッソ定数:堆肥からどのくらいのチッソが植物に供給されるか示す値
チッソ定数が1の場合、すべてのチッソが植物に供給される状態を指し、チッソ定数が0.5の場合、堆肥のチッソ成分のうち50%しか植物に供給されないことを指します。
施肥設計では、このチッソ定数を入力して施肥設計をします。(追加で入れる堆肥のC/N値を鑑みて堆肥のチッソ定数を把握し、追加でいれるチッソの量をきめます。)
ケーススタディ
堆肥「有機ソイル 1:1:1」があったとして、この堆肥は、C/N =25、チッソ成分 1%、総量100kgの堆肥です。土壌に1000kgの堆肥をいれた場合、植物に吸収されるチッソ量はどのくらいか?また、C/N=25のときのチッソ定数は25であった。
堆肥名のあとにある「1:1:1」はチッソ・リン酸・カリの含有%を示すので、この堆肥にはチッソが1%含まれていることが分かります。C/N比=25のときのチッソ定数は25なので、チッソの25%しか植物にいきません。そのため、植物にいくチッソは、堆肥の1%の10kgではなく、その更に25%である2.5kgということになります。
施肥設計する順番
- 石灰を入れる量を決める
- 苦土を入れる量を決める
- 鉄とマンガンを入れる量を決める
- アミノ酸肥料と堆肥を入れる量を決める
- 全体の微調整とカリ*を入れる量を決める
水を吸わせるカリは別名「リッチカリ」
太陽の熱が弱い地域では、植物も蒸散(太陽の熱から自分を冷まそうと水を発散させること)をしないので、水をあまり吸わなくなることがあります。カリには水を吸い上げる力を強める働きがあります。太陽の熱が強いかどうかによってカリの使い方は地域性があります。また、カリは上限値の2倍入っていても、作物にはあまり影響がないため「リッチカリ」とも言われています。
施肥設計ソフトに測定値を入力する
ドクターソイルで土壌分析した結果を施肥設計ソフトに入力し、追肥する量を決めていきます。詳細は、テキスト『実践!有機栽培の施肥設計: 設計ソフト付き』に記載されています。
施肥設計ソフト 使い方のポイント
- 規定値の比重は飾りなのでそのままに。
- 石灰と苦土とカリの合算でCEC値を出すので、必ず入力すること。
- 葉物は10cm、果菜類は20cm、果樹は30cmの項目を使って設計。
- 苦土の追肥設計をする場合、水溶性肥料から入力し、水溶性の苦土とク溶性の苦土が5:5になるように設計する。(追肥項目に入力することで、比率が分かるように工夫する)
Tips
授業の本筋とはズレますが、参考になるトピックを紹介します。
人参は単収が高い
有機農業で、単収が一番高い野菜は「人参」なのだそうです。人参畑にすると言って畑を買おうとすると、少し値段があがるとかあがらないとか。
有機農業なのに「硝酸」が検知されるケース
有機農業では、根にすぐ働く「アミノ酸チッソ」を利用するため、ドクターソイルで土壌分析しても、化学肥料の「硝酸態チッソ」や「アンモニア態チッソ」は検知されません。稀に硝酸が検知される場合がありますが、その場合は以下の2ケースが考えられます。
<ケース1>チッソが微生物が分解しきれないほど過剰だった場合、チッソが酸化して硝酸になってしまう。(作失敗)
<ケース2>土が乾いてしまい、微生物が死んでしまった。
発酵鶏糞を使う場合「アンモニア」が残留して検出されるケースもあります。
今回も濃い内容になりました。施肥設計ソフトはExcelベースということもあって、直感的な操作ができないため、何度も使うことで使い方を覚えてほうが良さそうです。テキストに細かい解説が記載されているので、読み込みたいと思います。
この記事は、研修を実施する「とくしま有機農業サポートセンター」の許諾の元、筆者の復習を目的に記載されています。内容の正確性を保証するものではありませんのであらかじめご了承ください。内容に誤りや不適切な点があった場合こちらまでご連絡いただけると幸いです。